私は、中西利雄が好き
水彩画は軽妙な感じがする。でも、中西利雄はこの軽妙な感じの水絵を重厚な油絵のように描きたかった。作品は風景も人物も素晴らしいと思う。重厚さが感じられるのは人物画のほうだ。風景画は水絵本来の軽妙さが生かされている作品も多い。
中西利雄著「水彩画の技法」の中に〈自然の持つ美しさと厳しさ〉について述べたところがある。一部を少し長くなるが転載してみる。
「〈略〉十和田湖へ新緑の写生に出かけた時であった。六月の奥入瀬の渓谷に入って私はじき自分の敗北を意識した。〈略〉やはり自然の美しさに圧倒されて手も足も出ない感じであった。〈略〉偶然その時同宿した京都の或る日本画家は私とは、別な方法で勉強しているのを知った。彼は毎日古風な望遠鏡を首に掛け、小さな写生帖と古新聞をたくさん抱えて渓谷に入っていく。望遠鏡は対岸の樹林や大きな樹木の枝にとまって囀る鳥類の生態を観察するために、古新聞は制作に必要な植物を採取して来るために、そして夜食後はランプの下で採取した植物の葉を整理分類して克明に写生するのである。この花鳥画家の毎日規則正しく自然の中に入っていって静かに観察し克明に写生し勉強している態度が私には羨ましかった。
〈略〉我々は自然の中に入るととかく自然の美しさに引き摺られがちであり、自然の美しさが圧倒的なだけに肝心の絵のことは忘れていつの間にか自然のあとを追いかけ回したり、自然の外側だけを撫で回すことは極めて多い。
自然の示す変転極まりない複雑な効果の中から、その感動を生き生きとつかみとりつつ形、明暗、色彩をもって厳しく再構成していくこと、自然の中に躍動する生命を生き生きと表現することが大切である。自然の示す美しさというものが普通考えられる美しさ(甘美)でなしにその美しさの中には非常に厳しいものを含んでいることも同時に知らなければならない。」
実に清々しい内容だ。この本を手に取るとき必ず読んでみる箇所である。





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